文字の歴史。オリエント・エジプトからアルファベットの誕生、漢字・仮名とプログラミングまで

Fri, Oct 9, 2020

ライター:平田提

歴史 日本史学び直し 文字
文字の歴史。オリエント・エジプトからアルファベットの誕生、漢字・仮名とプログラミングまで

文字による記録がない人類の歴史を「先史時代」と呼びます。ヒトの祖先・猿人は600万年近く前に生まれ、私たち「新人(ホモ=サピエンス)」は約20万年前に登場したとされています。文字が誕生したのは、紀元前3,500~3,100年ごろ。人類の歴史においては先史時代のほうが長いんですね。

文字が生まれるずっと前から、声によるコミュニケーション・言葉は生まれていました。猿人・原人・旧人たちは二足歩行をし、火や言葉を扱って進化してきましたが、新人はさらに文字を発明したことで文明を加速度的に発展させたといってもよいでしょう。 この記事では文字の成り立ちや歴史について紹介します。

podcastでは対話形式で文字の歴史について楽しく話しています。こちらもぜひ。

最古の文字はメソポタミア文明、シュメール・ウルクの絵文字(紀元前3,500~3,100年)

現在分かっている最古の文字は紀元前3,500~3,100年ごろ、現在のイラク付近にあるメソポタミア南部ウルクのシュメール人による絵文字とされています。 球形、円盤、円筒、三角形などの幾何学模様、動物の形などをした文字で、物々交換をした際に商品の安全性を保証するために使われていたことが、遺跡から発掘された粘土版から推測されています。 このウルク文字はやがて「くさび型文字」へと変化していきます。

ウルク文字がくさび型文字へ変化

ウルク文字がくさび型文字へ変化

紀元前1000年代、楔形文字の刻まれた粘土板。メトロポリタン美術館より。

ウルク文字はやがて粘土板に刻まれるうち「くさび型文字」と呼ばれる形式になりました。 「楔(くさび)」とは、V字型・三角形をした木片などのことで、隙間に金づちなどで打ち込んで空間を広げたり、それ以上広がらないように押さえたりするために使う道具のこと。 シュメール人は植物の葦(あし)や木のかけらをペンに見立てて粘土で傷をつけて文字を記していたのですが、そのペン先が三角形になっており「くさび」の形が刻まれるようになっていました。 もともとは「山」「女性」といった絵文字を三角形で表すうち、だんだんと三角形の組み合わせだけの文字になっていったようです。もともと初期の絵文字は1500種類程度確認されており、くさび型文字に変化した際、約600文字に減っています。

エジプトのヒエログリフから、アルファベットの誕生(紀元前3000年頃~紀元前9世紀)

エジプトのヒエログリフから、アルファベットの誕生(紀元前3000年頃~紀元前9世紀)

紀元前1961~1917頃とされるセンウセレト1世のピラミッドから発掘されたレリーフ。ヒエログリフが書かれている。メトロポリタン美術館より。

ウルク文字よりやや後、紀元前3000年頃にエジプトでヒエログリフ(聖刻文字)が誕生します。エジプトの文字はパピルスという紙にインクで記されていました。文字の種類が大変多く、文字の読み書きができることは特権階級であることの証明でした。

紀元前1500年頃、エジプトの東にあるシナイ半島でアルファベットが考案されました。もともとシナイに住む人々はエジプトのヒエログリフを借りて使っていたのですが、古代エジプト語とシナイの言葉は違う言語体系だったため使いこなすのが難しかったようです。

※語族……その言語の属する系統・分類のこと。語族の下にさらに「語派」があります。シナイの言葉は「セム語派」に属していました。セム語派には他にバビロニア語、フェニキア語、ヘブライ語、アラビア語などがあります。エジプト語は「エジプト語派」。

さらにいうとヒエログリフは700種類以上の文字がありました。シナイの人々はそのうちから25文字ほどを選びました。ヒエログリフでは発音されない「牛の頭」を意味する文字が、シナイの人々で「牛」を表す「アレフ(’aleph)」の最初の音の「’A」に。「家」を表すヒエログリフの「ペル」という文字が、シナイで「家」を表す「ベート(bet)」の語頭「B」に。この「アレフ」「ベート」が「アルファベット」の語源になっています。

このシナイ文字はほかのセム系言語に影響を与え、フェニキア文字やヘブライ文字につながりました。

紀元前490~480頃の青銅器の破片(ギリシャ)。アルファベットらしき文字が刻まれている。メトロポリタン美術館より。

紀元前490~480頃の青銅器の破片(ギリシャ)。アルファベットらしき文字が刻まれている。メトロポリタン美術館より。

紀元前9世紀頃の古代ギリシア人は、フェニキア文字から自分たちの文字をつくりました。ギリシア語はインド・ヨーロッパ語族だったため、セム系のフェニキア文字を使うには無理がありました。そもそもフェニキア文字などセム系の文字には子音しかありませんでした(今でもヘブライ語やアラビア語は子音だけで表されます)。そこでフェニキアでは「’A」や「H」音を表す文字を、ギリシア語では「A」と「E」とするなど、母音が生まれたのです。 

紀元前9世紀頃の古代ギリシア人は、フェニキア文字から自分たちの文字をつくりました

漢字やハングルの誕生。中国の影響力で漢字を使う国は多い

いままではオリエントやエジプト、ヨーロッパを中心にした文字の歴史を見てきました。今度は中国に目を移します。漢字は中国で紀元前2000年頃に誕生。紀元前1500年頃に文字の体系が整理されていき、紀元前202~紀元220年までの漢王朝で文字の体系が定まりました。中国で1898年に起きた黄河の氾濫(はんらん)によって発見された、亀の甲らやシカの骨に刻まれた「亀甲文字」が、中国における最古の文字とされています。用途としては占いに使われていたようです。その後、篆書(てんしょ)、隷書(れいしょ)、草書(そうしょ)、行書(ぎょうしょ)、楷書(かいしょ)と書かれるうちに漢字は簡略化されていきました。

東アジアにおいて中国の存在は大きく、ベトナムや朝鮮半島でも漢字が使われてきました。ただ15世紀李氏朝鮮で『訓民正音』が公布、朝鮮半島では「ハングル」と呼ばれる文字が開発されます。文字の歴史の中でもハングルは比較的新しく、発音記号を組み合わせているため初めての文字でも読みやすいユニークな文字体系になっています。

漢字から日本語のひらがな・カタカナ文字が生まれる

日本神話は「八百万(やおよろず)の神」と呼ばれるように、ギリシアやローマと同じく自然信仰から始まる多神教の文化です。日本においては4~5世紀に漢字が伝来するまで、母国語を記す文字がありませんでした。そのため伝承や記録はおもに口頭伝承、声で行われてきました。

東アジアで大きな影響力を持つ当時の中国の文化。漢字を日本ではどう受け入れるべきか。選択肢は3つありました。

  1. そのまま中国語として受け入れる
  2. 日本語の発音はそのままで漢字を外国語として扱う(現在のカタカナ語のように)
  3. 漢字を日本語読みする

結果的に採用されたのは「3」の方法です。中国語の習得を進めるのは難しく、そもそも日本古来の文字がないため中国語を外国語として受け入れると中国の影響が強くなってしまいます。そこで元々音だけはあった日本語の発音を漢字に当てはめました。 「天」ならば「テン」、「人」ならば「ジン、ニン」というように。

藤房本三十六歌仙絵に描かれた、平安時代の貴族・歌人、源宗于(みなもと の むねゆき)の像。メトロポリタン美術館より。

藤房本三十六歌仙絵に描かれた、平安時代の貴族・歌人、源宗于(みなもと の むねゆき)の像。メトロポリタン美術館より。

それがそのうち奈良時代に「万葉仮名(まんようがな)」になりました。「ヒト」を「比登」で、「ハナ」を「波奈」で表す。それがやがて「ヒト」は「人」、「ハナ」は「ハナ」という風に漢字一字に和音を当てる文化も生まれていきます。 平安時代、和歌の文化が広まると、漢字の楷書を草書に崩し、さらに「草仮名(そうかな)」という崩した字になっていきました。 この流れでさらに漢字を簡略化し、日本語の1音を1文字にあてた「平仮名(ひらがな)」「片仮名(カタカナ)」が生まれます。

高度経済成長期に、トヨタ・ホンダなどの自動車、松下電器やソニーなどの電化製品が独自の成長を遂げたことなど、外国文化を日本独自のモードにアレンジしていくのを日本のお家芸といわれることがあります。 ひらがな・カタカナと漢字を合わせ並べる文化は、その発想の大元にあるといえそうです。

関連記事:日本の漫画文化の特徴は、漢字・ひらがな並べたてがベースのモンタージュ理論?

文字の発明、歴史的な意義とは?情報の貯蔵からプログラミングまで

口頭での伝達はその場に居合わせる必要があります。文字の場合は、記録したものを読むタイミングは自由です。つまり文字によって「情報の貯蔵」、時間差をつくることが可能になりました。 この後、日本では弥生時代に農耕が発展し、ムラやクニの形成につながります。それというのも、コメなどの穀物を貯蔵できたことで「余剰」が生まれたことが大きいのです。余剰により貧富の差が拡大し、武力と合わせ権力差が生まれました。「余剰」は人類史にとって大きなポイントだと思われます。

能楽師・安田登さんによれば文字は「脳の外在化」を進めたとされています。

紀元前に起きたシンギュラリティからの「温故知新」:能楽師・安田登が世界最古のシュメール神話を上演するわけ

文字は人間の考えや記憶を外に置ける、ハードディスクみたいに機能し始めたわけですね。それにより脳に余剰ができ、違う活動ができたのではないか、と安田さんは述べられています。文字は外部記憶になるだけなく、それ自体に意味があり、書いたものを読んで人間はまた考え、改めます。このループ(繰り返し)がその後の人類の文化の発展に影響しているのではないでしょうか。

30足らずの表音文字で言語を表現できるようになったアルファベットの誕生は画期的な出来事でした。 9~10世紀に文字を書けるのはキリスト教下では僧侶や一部の人に限られていたようで、文字を読むといっても音読するのが普通でした。聖書はもっぱら「写本」という手書きで移す行為によって増やされていき、15世紀に入ってドイツでヨハネス=グーテンベルクという人物が活版印刷機を発明し『四十ニ行聖書』を印刷。広く聖書を普及する助けとなりました。

歴史書に限らず「情報の貯蔵(記録)」と交換、手紙による遠隔地への連絡、法律の制定、言語の翻訳や統一、印刷技術、プログラミングなどいまの人間社会は、文字によって支えられています。

皆さんにこうして筆者が文章で情報を伝えられるのも文字のおかげですし、このWebサイト、WebページはHTMLやCSS、JavaScript、GO言語というプログラミング言語で書かれています。サーバの処理にもプログラムが必要です。これらはすべて、今まで見てきたアルファベット(文字)の命令文で動いています。

文字はいまの文明の基盤にありますが、例えばSNSの炎上や誹謗中傷で悲しい事件が起きるなど、文字は人の生き死にすら左右する力を持っています。その力の大きさを知った上でうまく付き合えるよう、少しひと呼吸置いて使えるとよさそうです。

今回の歴史が学べるフィクション

フランスの作家アンドレ・ジッドの小説『贋金つくり』には「読者なんて、印刷されたものは何でも信用するからな」というセリフが出てきます。この小説では「贋金」や「本当の言葉」「文学」といったテーマで群像劇が繰り広げられていきます。フランス革命で王権が失墜した時期と、金と貨幣が交換できた時代から信用による交換への移行、ロマン主義から自然主義への移行は近い時期にあります。言葉と貨幣、社会体制の変化は大きく連動するものなのでしょう。筆者は大学時代卒業論文で『贋金つくり』を取り上げましたが、これを十数年ぶりに朗読して突っ込む企画をpodcastで展開しています。よろしければこちらもぜひ。

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参考文献

  • 『文字の歴史』著:ジョルジュ・ジャン、監修:矢島文夫(創元社)
  • 『ものの始まり50話』近藤二郎(岩波ジュニア新書)
  • 『改訂版 詳説世界史B』大村靖ニ・岸本美緒・小松久男(山川出版社)
  • 『改訂版 詳説日本史B』笹山晴生・佐藤信・五味文彦・高杢利彦(山川出版社)
  • 『もういちど読む 山川日本史』五味文彦・鳥海靖 編(山川出版社)
  • 『日本という方法』松岡正剛(NHKブックス)
  • 『グーテンベルク 人と思想150』戸叶勝也(清水書院) ほか

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