『エヴァ破』の謎と面白さ&「今日の日はさようなら」の異化効果

2021/01/22 10:01

ライター:平田提

アニメ 1995年 新世紀エヴァンゲリオン 映画 ブックフォービギナーズ
『エヴァ破』の謎と面白さ&「今日の日はさようなら」の異化効果

95年のTV版以来『エヴァ』ファンの2人で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を改めて観てみました。謎は相変わらず多いものの、エンタメ要素が多く面白い『エヴァ破』。使徒に侵食された参号機と初号機の戦いで流れる「今日の日はさようなら」の異化効果についても語りました。

『エヴァ破』の能動的な主人公と、限界を超える面白さ

――『エヴァ破』(『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』)を改めて観てみましたが……どうでした?

栗原:やっぱり「好きだなあ」って思った。何が好きなのかっていうと、各キャラクターが人間臭い。そこが観てて安心できるんだよね。水族館?のシーンで綾波レイが味噌汁を「おいしい」って言うとか。アスカが使徒迎撃の後に落ち込んで「バカシンジって呼ぶから」って言うとか、エモーショナルなシーンが多い。どんどん追い込んでいくTV版・旧劇場版の『エヴァ』とはちょっと違う、「観たかったエヴァ」なんだなというのはあるね。

――そうだね。『エヴァ破』にはエンタメが詰まってるよね。いろんな喜怒哀楽や緊張と緩和がある。ベタな展開も押さえつつ、『ヱヴァQ』につながる不穏な雰囲気もある。やっぱり観ていて快感があるのは、主人公のシンジくんが能動的だからなんじゃないかな。

栗原:少年漫画誌っぽいよね。1回落ち込んでからの最後のアクティブになる感じ。

――言ってしまえば「姫を助ける」という『スーパーマリオブラザーズ』的な王道の展開だよね。綾波を救うという。監督の庵野さんって「限界を超える」展開が好きなんだな、と。エヴァに電源を供給するアンビリカルケーブルが切れたり活動限界、タイムリミットを迎えるサスペンスと、その後だいたいエヴァが暴走していく。燃えることが分かってる展開。

栗原:『ドラゴンボール』のスーパーサイヤ人みたいな。

――数値化できない、気合で乗り越える感じね。

『エヴァ破』「今日の日はさようなら」の異化効果で強く残るシーンになった

栗原:一番最後、使徒に取り込まれた綾波レイを助けに初号機のシンジが飛び込んでいくシーンで、「翼をください」の曲が流れるでしょう。あそこの怒涛の盛り上がり、心をぐっとつかまれる感じがいいよね。

――「翼をください」はカタルシス(浄化作用≒快感)があるけど、一方でアスカが乗った参号機がダミープラグの初号機にボコボコにされるシーンで「今日の日はさようなら」を使うのは異化効果(※)がすごかったよね。エントリープラグを噛み砕くシーンの前で「友だちでいよう」「また会う日まで」って……。

※異化効果
……観客・読者が慣れ親しんだ日常の出来事・モノなどを非日常的に受け取らせる表現。文学ではシクロフスキーが1910年代に、演劇では劇作家ブレヒトが1920代にそれぞれ提唱した。映画ではゴダールが「ソニマージュ」という音と映像のズレや際立たせ方を意識的に(異化的に)行う手法を編み出した。この文脈での「異化効果」はソニマージュに近い。『エヴァ破』の「今日の日はさようなら」は日本で学校生活を送った人が卒業式の合唱などで歌い馴染みのある歌。切ない別れながら友情を語るその歌を残虐な破壊(シンジの操作を離れて)のシーンに掛け合わせることで、音・映像、感情が異化され際立っていると考える。このシーンに例えばオーケストラによる悲愴な曲を合わせていた場合、同じような心のエグられ方をしたかどうか。もちろんそういった選択も作者や作品によって正しい場合があるが、あえてこの曲を選ぶのが『エヴァ』や庵野秀明監督の面白さではないだろうか。

栗原:セカンドインパクトを説明するシーンで絵本とか絵コンテみたいなタッチもあったけど、ギャップによって余計に感情を掻き立てるよね。アスカ好きの人はさぞかし当時苦しかったろう……。

――苦しかったですよ……。

栗原:最後の予告編で「生きててよかった!」ってなるけどね。

――予告編の眼帯アスカは、旧劇場版の惣流・アスカ・ラングレーなんじゃないかみたいな説もあったね。

栗原:そうそう。改めて観て思ったのは、TV版だとアスカは孤独や闇の部分がよく描かれていたよね。今回はそういうのがない。サラッと触れるぐらいで。

――そうだね。

栗原:そこも安心して観られる要素だったのかもしれない。

――TV版だと精神汚染してくる使徒とか、いろんな自信喪失が重なってアスカが精神崩壊してエヴァに乗れなくなるよね。母親に拒絶された過去とか、確実に病むところが描かれた。 

栗原:そういう意味で、『エヴァ破』のアスカは「惣流」とは違う、式波アスカなんだよね。

『新世紀エヴァンゲリオン』って女性が活躍する作品なんだということ

――観直して思うのは、『エヴァ』って女性が活躍する作品なんだということ。アスカ、レイ、マリ、ミサトさん、リツコさん……『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』になるとその色がより強くなってる。それはこの20数年の時代の変化もあると思うし、庵野さんはフィルムに自分や時代を反映するとよく言ってるので、庵野さんが結婚されたり女性のイメージが変化したりした影響もあるのかも。

栗原:たしかに『エヴァ破』は女性の弱さが捨象されてるね。旧作ではミサトさんは強い一方で加持さんに弱さを見せたり、リツコさんもゲンドウとの関係に依存していたり、アスカも人には見せないコンプレックスがあったりした。でも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』は凛とした女性が描かれている。

――TV版の『新世紀エヴァンゲリオン』が放映開始された1995年や、旧劇場版の1997年って心の時代といわれていた。阪神大震災やオウム真理教事件の影響もあるけど、その目から精神分析やオカルトが流行っていた。旧劇場版では各キャラのトラウマや内面描写もあった。新劇場版は尺の問題もあるだろうけど、アクションや事実の描写がより多い気がする。

・関連記事:『新世紀エヴァンゲリオン』企画書テーマの考察・解説。1995年の虚構性、他者を愛せるか

『エヴァ破』で初登場のマリの謎。ループを打ち破る存在?

――『エヴァ破』で初めて出てくる、真希波・マリ・イラストリアス自身とその目的はとにかく謎だよね。冒頭、仮設伍号機で使徒と戦って自爆するシーンがあるけど、加持リョウジのセリフに対応して「自分の目的に大人を巻き込むのは、気後れするなあ」って言う。じゃあその目的は何なのか。エヴァを減らして人類補完計画の阻止することなのか? 全然分からない……。

栗原:次作の『ヱヴァQ』になると「ゲンドウくん」とかレイに向かって「あなたのオリジナルはもっと……」とか含みをより持たせるよね。

――漫画版『新世紀エヴァンゲリオン』の最終話にもマリは出てくるけど、新劇場版とのつながりは謎だね。
 
栗原:『エヴァ破』でマリがシンジくんと初めて出会うシーンで、ウォークマンの曲順が 「27」に更新されるよね。

――ゲンドウからもらったS-DATの曲順は、『ヱヴァ序』『エヴァ破』の途中までは「25」「26」をループしていた。これは恐らくTV版(劇場版)の話数のことで25話、26話は人類補完計画にあたる。マリの登場で27話に入ったっていうことなのか、ループを抜け出したって意味なのか。

栗原:マリは加持さんと一緒に行動してたのかどうかもよく分からないし、スパイっぽい存在なんだろうか。いずれにしろ謎だね。

・関連記事:『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』感想。改めて観て出た謎&お仕事アニメ感

『エヴァ破』の謎。どこまでがゲンドウの「計画どおり」なのか?

栗原:あと加持さんが「数が揃わないうちに始めてしまうのか」みたいなことを言うんだけど、どの辺からゲンドウとゼーレの計画がずれていったのか、加持さんがどこまで知っていたのかが謎。

――そうだね。謎が多すぎて、『シン・エヴァンゲリオン』で解答があるのか……。

栗原:あと最後にカヲルくんが「今度こそ君だけは幸せにしてみせるよ」ってシンジを思って言うけど、「今度こそ」の意味やカヲルくんってどんな存在なのかも分からない。

――旧作からアダムがアダムスになっているのはループで複製されたのか、ゼーレの裏コード「死海文書」にループしたことは記録されているのか、とかもね。

栗原:『エヴァ破』はまだTV版を継承しているけど、分岐もはっきり見え始めてるよね。

――そういう意味で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のタイトルに付けられた「序・破・急(Q)」の意味をそれぞれの作品が担っているんだね。「序破急」って能の展開のことだよね? 序盤の『序』は助走の意味があり、『破』は物語展開的にも、ループや前の作品とのつながりも打ち破る話、『Q』は文字通り、謎。

栗原:『エヴァ破』はキャラのあり方も打ち破っていて、一瞬だけど幸せなシーンが詰まってるし、シンジくんの成長した姿も観られたのが良かった。

――ゲンドウですらレイに食事に誘われて行こうとしたり、反応したり冒頭のお墓参りのシーンとか、TV版よりシンジへの態度が軟化して見えるよね。一方でそれも策略なのかなって思ったり。シンジの承認欲求を一度満たしておくとか。綾波とシンジが仲良くなることも計画にあるっぽいから……。どこまで計画なのか。ゲンドウには「計画どおり」が多すぎる。

栗原:会社で「今はこれでいい」って使おうかなと思った(笑)。何が起きても「今はこれでいい」。

――ものすごいトラブルが起きても「今はこれでいい」。これは使えるね(笑)。

podcast版

Placeholder image

平田提
Dai Hirata

Web編集者・ライター・マーケッター。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。得意な分野は現代文、日本史、世界史、アニメ・漫画・ゲーム、プログラミングなど。過去の仕事=光田康典さん&岸田繁さん対談/『芥川賞ぜんぶ読む』Web版編集/「クロノ・クロス」20周年ライブパンフインタビュー等。現在は企業のオウンドメディア支援、SEOのお仕事多め。菩提心。
学べるコンテンツ制作については下記のリンクからお気軽にお問い合わせください。https://tog-gle.com/#contact/
アイコンは漫画家・つのがいさんによるもの。

podcastをフォロー

Listen on Apple Podcasts
Google Podcasts | Spotify

URL copy