『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『エヴァQ』わからない謎。「大人になれ」のテーマは明確に

2021/01/29 18:05

ライター:平田提

新世紀エヴァンゲリオン 1995年 アニメ 映画 ブックフォービギナーズ
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『エヴァQ』わからない謎。「大人になれ」のテーマは明確に

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』公開に向けて、『エヴァ』ファンの2人で『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を改めて観てみました。『エヴァQ』を何度観ても未だにわからない謎はありますが、逆に「大人になれ」のテーマは明確になったかもしれないねというお話になりました。

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『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の感想。とにかくぽかん。不憫なシンジくん

――『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』を改めて観ましたが……どうでしたか?

栗原:「こんなひどいことってある?」というのが感想だね(笑)。 『エヴァ破』はハッピーなテイストというか、成長したシンジくんが見られてよかったんだけど、最終的に綾波レイを救い出そうと行動した結果が最悪な結末になってしまった。 『エヴァQ』でそれを知らされてシンジくんは落ち込むけど、自分の希望でもあるけど贖罪のためにも、良かれと思って行動した結果がことごとく裏目に出てしまう。最終的には廃人みたいに……

――僕も最初に観たときぽかんとしたけど、今観ても感想はそんなに変わってない。「ん?」って “Q”が止まらない。 『エヴァ破』でミサトさんが 「誰かのためじゃない! あなた自身の願いのために! 」ってシンジくんを焚きつけるわけだけど、初号機を介して綾波を救おうとした結果、サードインパクトが起こってしまった。カヲルくんがカシウスの槍でいったん収めたけど、『エヴァQ』では登場からいきなり、世界を破壊させた大罪人の扱いになっている。そりゃあ廃人にもなるよね……。

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栗原:心をボッキボキに折られてるから、カヲルくんの言葉は甘い囁きだよね。心を持って行かれる。

――この状況でカヲルくんにあんな優しくされたらそりゃあ好きになりますわ。

栗原:でもカヲルくんと一緒に槍を取りに行くシーンでもカヲルくんは「嫌な予感するからやめよう」って何度も忠告してるんだよね。でもシンジくんは「カヲルくんが言ったんじゃないか」ってもう……原点主義というか、言われたことが使命にすり替わってしまう。

・podcast版

「you are (not) alone」「you can (not) advance」「you can (not) redo」は「大人になれ」って意味?

――今回『エヴァQ』を観直して改めて思ったのは、『新世紀エヴァンゲリオン』全体に一貫しているテーマは「大人になれ」なんだってこと。大人になる=自分で決めること。そこが明確に見えた。例えば、『エヴァ序』『エヴァ破』『エヴァQ』それぞれで途中にこういうメッセージが差し込まれるよね。

  • 『エヴァ序』……you are (not) alone.
  • 『エヴァ破』……you can (not) advance.
  • 『エヴァQ』……you can (not) redo.

直訳すると、

  • あなたは一人だ(一人じゃない)
  • あなたは前に進める(進めない)
  • あなたはやり直せる(やり直せない)

それぞれの作品のテーマにもつながるけど、一貫してるのは「すべて決めるのはあなた自身だよ」ってことなんだよね。これは保護者であるミサトさんやゲンドウがシンジに言っていることなんだけど。

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自分で決められないシンジくんだからこそ、サード(フォース)インパクトに繋がるだろうから、ゲンドウは任せてるんだろうな。ひどい(笑)。

栗原:なるほど。

――ゲンドウさんが唯一ともいえるシンジへのアドバイスを漫画版でしているけどそれは「自分の足で地に立って歩け」ということ。『エヴァQ』の最後のシーンはまさにそれになっているよね。母親たる(大人からもらったものである)エヴァから降りて自分の足で歩く。先導してくれるのはアスカという血の繋がらない他者なんだけど。 『シン・エヴァンゲリオン』でシンジくんが自分で決められるようになったら、それこそが補完になのかもしれないと思った。

栗原:『エヴァ破』のときのテンションは「世界がどうなろうと自分の意志を貫く」っていう、ポジティブにも捉えられる行動だったよね。ゲンドウが「願望はあらゆる犠牲を払って自分の力で叶えるものだ。シンジ、大人になれ」って語る。『エヴァQ』でも冬月コウゾウがゲンドウに「ゲンドウの生き方は役に立たないって思ってるかもしれないけど子供に見せても意味があるんじゃないか」って言う。ある意味、セカイ系っぽいものが否定されているのかもしれない。一人で背負って、世界に対して自分に何かができるなんて簡単じゃないぞって。

※ここで思ったのは『エヴァQ』の「Q」は「序破急」という物語展開の「急」の替え字であり、疑問が噴出する「Q」でもあるともいえそうだが、「問い」そのものなのかもしれない。 シンジのように「よく分からない」「何をすればいいんですか」と答えを他者に求める問いではなく、自分自身が追究したい問いはあるのかということ。明らかにゲンドウにはあるが、シンジにはまだ明確ではなさそう。カヲルは「魂が消えても願いと呪いはこの世界に残る。意思は情報として世界を伝い変えていく。いつか自分自身のことも書き換えていくんだ」とシンジに優しく伝えるが、シンジにとっての願いは何なのか。『エヴァQ』ではタイトル、ドラマによってそれを突き詰められているようでもある。

――例えば映画やアニメの制作でいうなら、監督のパッションやイメージは大事なんだけど、スタッフの人を巻き込んでうまく理想を実現したり現実と葛藤していく必要がある。だいたいの仕事はそうだよね。『エヴァ』の世界だって、エヴァのパイロット以外にも伊吹マヤさん日向マコトさんたちエンジニアやオペレーター、能力ある人たちの協力があって成り立っている。ゲンドウはエゴを通してるけど、そのために人を使いきっている。シンジくんは一人の中からは出きっていない。

栗原:犠牲を払う覚悟ができてないのかもしれないね。

――ただシンジくんは自分が何か選択したら世界が崩壊するってことを別に望んでいるわけでもないんだよね(笑)。ひどい。そういうゲーム設定になってる。

栗原:クソゲーだ(笑)。

・podcast版

より虚構性が強調された『エヴァQ』。ピアノのシーンは『ナウシカ』を連想

――気になったのは、戦艦ヴンダーが飛ぶそばで戦艦も一緒に宙に浮くでしょ。そのときにピアノ線みたいなのが見えてるんだよね。虚構っぽさをそこで出してるのかなって思った。同じ庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』のキャッチコピーは「現実(ニッポン)vs虚構(ゴジラ)」だったけど、『エヴァ』の世界は旧約聖書の出来事をフィクションとして捉えるのではなく本当にあったことになっている。科学的なもので固められているけど根底には神話があるんだよね。フィクションが支配している世界。さらに死海文書っていうフィクションであらゆることが進められてしまう。シナリオはゲンドウが書いている。 そういう設定からさらに進んで、『エヴァQ』では舞台美術にも虚構っぽさが表れてきてるんだなって。

栗原:確かに現実離れしたような背景が多かったね『エヴァQ』は。 フォースインパクトが起こった後は海だけじゃなく世界が真っ赤だったり。あとカヲルくんと一緒に現状を見に行ったところで街を見下ろすけど、崩壊した街の向こうに月なのか星が見えるんだよね。十字がめぐらされた。今までの第3新東京市みたいな日常風景とのつながりがない世界なんだよね。

――悪夢のような絵というかね。

栗原:心のとまり木というか、そういうのがない。ずっと戦艦に乗ったり宇宙で浮いているシーンが多い。それか廃墟か。生きているものの日常世界が少ないんだよね。強いていうとカヲルくんとの連弾のシーンぐらいか。

――カヲルくんのピアノと木がやけにきれいに映るんだよね。あのシーンは『風の谷のナウシカ』漫画版7巻を思い出した。大国トルメキアの皇女クシャナのお兄さんたち2人が出てくるんだけど、強欲でだめな人物たちなんだよね。でもヒドラの庭で、記憶をなくしたような状態でとても優雅な気持ちになってピアノを2人で弾く。そういう現実感のなさが似てるなって。そのシーンでも緑や木漏れ日、青空や生命の美しさが描かれるんだけどどこか嘘っぽい。『エヴァQ』のピアノのシーンもそうでサードインパクトの虚構的な風景の中での現実感だから、逆に言うとその現実感のほうが嘘みたいなんだよね。予告でピアノのシーンを観たとき「なんだこれ……」って思ったけど、大事なシーンだったら予告になったんだろうな。

栗原:そうだね。アレを観て世のカヲルくんファンは「ついにきました」というか観たかったカヲルくんじゃないかって思ったね。

――TV版より、漫画版より、新劇場版のカヲルくんが一番グッと来るよね。優しいんだもん。

栗原:『エヴァQ』があまりにも虚構のように『エヴァ破』から離れて見えるから、夢オチじゃないけど虚構として処理されて『シン・エヴァンゲリオン』に行くのではと思ったけどさすがにそうじゃないんだね、予告を観ると。『エヴァQ』の中でもキーアイテムのウォークマン(SDAT)の曲目が「28」になっていて、ちゃんと物語が進んだんだと分かる。

『エヴァQ』から『シン・エヴァンゲリオン』へ。どう終わりへ向かうのか?

栗原:そうなってくると「真のエヴァンゲリオン」ってなんですかって話。

――何なんだろうね、本当に。

・podcast版

栗原:ゼーレやらは「リリスとの契約条件」とか言っていたけど……。

――旧劇場版ではキリストの磔みたいな儀式を行うために、「13」という数が大事という話になってた。新劇場版では真のエヴァンゲリオンをつくることがゼーレとかゲンドウの大事なことになってるよね。 『シン・エヴァンゲリオン』では「綾波レイ(仮称)」がメインとして描かれるのか、それとも初号機の中にいる?『エヴァ破』までの綾波なのか。それがどう人類補完計画に関わるのか、それとも人類補完計画ではないのか。すべてが分からないね。でも使徒やゼーレとの戦いというよりは、ヴィレとネルフの戦いになるんだろうね。

栗原:予告編を見る限りはそうなのかな。

――初号機っぽいやつと13号機みたいなのが戦ってるシーンもあったよね。これで『エヴァ』が終わるんだとして、『エヴァ破』のようにはいかなくてもスカッとできたら良いなと思ってる。また旧劇場版みたいな終わり方されたら、また20年ぐらい傷ついた気持ちでいなきゃいけない(笑)。

栗原:このこじらせ方が治らないよね(笑)。スカッと終わってほしいけど、謎を全部説明されきっちゃうのもさみしい。そうはならないだろうけど。

――『エヴァ』ならではの考察する楽しみは残してくれそうだよね。さっき言ってたみたいない、何がしかシンジくんが自分で決められるようになるといいけど。

栗原:救いのようなものはほしい。観終わって廃人みたいなになってるかもしれないけど(笑)。とにかく楽しみにしてます。

――『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の公開を楽しみにしてましょう!

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平田提
Dai Hirata

株式会社TOGL代表取締役社長。Web編集者・ライター。秋田県生まれ、兵庫県在住。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。ベネッセコーポレーション等数社でマーケティング・Webディレクション・編集に携わり、オウンドメディアの立ち上げ・改善やSEO戦略、インタビュー・執筆を経験。2021年に株式会社TOGLを設立。

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